奴隷

ハリエット・ジェイコブズの 『ある奴隷少女に起こった出来事』を読んで アメリカの奴隷制度は酷いとか アメリカの白人の黒人への差別はは酷いとか ブラック・ライヴズ・マターとか いろんなことが言えるのだけれど そして確かに酷いことではあるのだけれど 19世紀の半ばといえば日本はまだ江戸時代で 罪人の妻子は上がり者という奴婢になって 希望する者に引き取られたなんていうことを読むと あれっアメリカも日本も変わりないじゃないかって そんなふうに思えてしまう 庄屋喜兵衛が租税を免れるため隠田をして 磔で家財没収で家族は上がり者になったとか 庄屋文五左衛門は悪政に憤り騒動を煽動して 獄門で家財没収で家族は上がり者になったとか そうでなくても奴という身分刑があって 人別帳から除き個人に下げ渡し奴婢にして 新吉原などで娼婦として働かせただとか 幕府は人身売買を禁じていたのだが 年貢上納のための娘の身売りは認めていて 遊女奉公をさせられた少女は多かったとか 借金の前借りをして年季奉公に出され 丁稚や女中や芸娼妓としてこき使われたとか その苛酷さはアメリカの黒人奴隷と変わらない 奴隷制度が廃止されたあとのアメリカで 黒人への差別がずっと続いていたように 明治になっても人身売買は続いていて 児童を中国人に売ることが禁止されたり 娼妓解放のお触れが何度も出されたりしたが 古い慣行はなくなることなく続けられていた 製糸工場では何も知らない少女たちが わずかの借金の前借りで奴隷状態に置かれ 牢獄のような寄宿舎での生活を強制され 逃げれば残虐なリンチが加えられた 戦争に負けて人身売買は廃止されたが 売春関連のビジネスは今でも続いている アメリカの黒人差別が今でも続いているように 日本の人身売買は今でも続いているのだ 韓国で徴用工や慰安婦のことが問題になるけれど 酷い目にあったのは朝鮮の人たちばかりではない 徴用工も慰安婦も その大半も日本人だったのだ みんなで忘れるために目を瞑っているうちに 黒い歴史は白い歴史になり 黒い企業は白い企業になり 悪い人たちは良い人たちになる 歴史はすべて変えられて 日本には人身売買はなかったことになる Harriet Jacobs の Incidents in the Life of a Slave Girl のような本が出て 日本人が日本人にしてきたことをみんなが読んで これからは酷いことをなくそうと思わない限り 悪いことはまたやってくる 経済はきっと悪くなる それでも人身売買のようなことが はびこるるようにしてはならない 風俗嬢は いなくならなければいけない 人材派遣事業は なくならなければならない